2010.9.25 Saturday
≪漁船衝突事件が示唆する新外交戦術≫
尖閣諸島沖で起きた漁船衝突事件で中国人船長が釈放された。 公式には否定されているものの、「政治的判断」が背景にあったことは火を見るよりも明らかです。
その判断に至る過程では様々な要因が働いたと考えられますが、中でも「レアアース(希土類)」の対日輸出を事実上停止した措置が決定的なものとなったのでは、と考えています。
もはや武力による国家間の戦争といった事態は一部の例外を除いて想定し得ず、既に経済戦争の時代に突入しています。 そして中国は今般、国益の為には経済制裁を含めた強気の外交を行なうことも辞さないといった構えを世界に見せつけたのでした。
世界におけるレアアースの年間生産量は12万トン。 内、9割以上を中国が占める中、日本は国内需要の9割を中国に依存。中国が7月末から前年比4割減の輸出制限を始めたことから、日本は8月末の閣僚級の日中ハイレベル経済対話で制限緩和を求めるなどしてきました。
ハイブリッド車や電気自動車のモーターに使う磁石に微量を混ぜるだけで性能が大きく向上。携帯電話の電子部品や太陽光発電パネルなどハイテク製品の製造に欠かせないものである為、日本経済を「兵糧攻め」するには最も効果の高い手段であったと考えられます。
中国は今後、周辺諸国はもとより米国に対しても国益の追求の為にはこうした経済制裁を含めた強気な外交を行なってくることは十分に予想されます。 人民元の切上げ等によって米国の貿易赤字が削減される可能性があったとしても、経済報復措置等が取られてしまえば米国へのネガティブインパクトは大きく、従って中国は、比較的マイペースで人民元を切上げることができるのです。
中国が「力の外交」を継続すれば、東アジアにおける米国の負担も大きくなると予想されます。 米国にとっては景気回復の足取りが重い中、軍事費の増大により益々財政状況が悪化して行くことが懸念され、基軸通貨国の国力の低下は、世界中に混乱をもたらす危険性が高まることを意味します。
中国と共に、米国の巨額の財政赤字を埋めてきた日本ですが、今後も介入資金で財政的に米国を支え続けるのか、防衛(自衛)力増強のため国外から当該設備を購入して行くのか、強い円を活用して海外の資源関係に積極投資を行なうのか、大事な岐路に立たされているのです。
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