2011. 6. 1 Wednesday
≪ターゲットは、「MOP層」!≫
先進国経済の大きな成長が期待しがたい中、新たな市場として、途上国低所得階層、いわゆる「BOP層」が世界的に注目され、本邦でも官・民が連携し、事業活動を通じて社会課題の解決を目指す「BOPビジネス」の推進が期待されています。 一方で、欧米や中国・韓国企業との対比では、その遅れが際立っているのが現実です。
本邦企業の場合、果たして対象層は本当に「BOP」で良いのか・・・。
世界人口の約72%に相当する約40億人が年間所得3000ドル未満の収入で生活しており、その層が「BOP(Bottom/Base of Pyramid)層」と位置づけられ、消費市場規模は日本の実質GDPに匹敵する約5兆ドルとも試算されています。
経済産業省は、「BOPビジネスは、持続的、効果的な経済協力の実施、わが国企業の海外進出という二つの目的を同時に達成するものであり、政府・企業・国際機関・援助機関・NPO・NGO等の様々な関係者にとって新たな挑戦分野であるとともに、各々にとって有益な関係を構築できる新たな契機ともなりうるものと考えられます。」としています。
先日、日本貿易振興会(JETRO)の主催する「BOPビジネス潜在ニーズ調査報告会」に出席し、調査を委託された各企業等の報告やビジネスチャンスのアイディア等を拝聴する機会がありました。
具体的な事例を挙げると・・・。
バングラデシュでは、天然ガスが主要なエネルギー源(使用商用エネルギーの76%)であるが、近々埋蔵量の枯渇が懸念される。 圧倒的な需要過多による慢性的な電力不足と伴う停電の頻発が社会経済上の大きな問題点。
政府は、家庭用ソーラー発電システム普及プログラムを推進する。 標準的な費用は約52,000円であるが、個人単位での購入は負担大きい。 日本製の「ソーラーランタン」の人気高い。
ケニアでは、水へのアクセスが困難で、灌漑農地の割合が0.1%。 農業従事者が購入したい資機材は耕作機、手押し車、噴霧器等・・・。 人工的に河川や湖の水を引き込むインフラもなく、雨に頼っている状況等から、水を引き込む為のポンプ、ホース、点滴灌漑設備等が具体的な商品として求められている。
タンザニアでは、コレラやマラリア等に対する薬が不足している。 生活必需品の調達は村のキオスクのみが頼り。 但し、粗悪品が高額でしか手に入らない。 女性固有の必需品等も選択肢は少なく、単価も高い。 手洗い用消毒液等、水不足への対応として、水を使わずとも身の回りを清潔に保つ方法(商品)を求めている。
各社とも、現地にて実施したアンケートやヒアリング結果など綿密な調査をベースに、現地ニーズを的確に掴み取っており、「BOPビジネス」推進に向けたモデルを構築しようとの試みに接することができました。
【 世界の所得ピラミッド 】
(BOPビジネス支援センターHPより)
が、一歩退いて冷静且つ客観的に検討した場合、日本企業が果たして海外のライバル企業との競争に勝ち残れるのか、という疑問に突き当たってしまいました。
(最)低所得者層向けの製品である為、当然のことながら先進国の感覚と比べ、低品質で圧倒的な低価格の設定を迫られます。
何故なら、BOP市場への参入とは、すなわち果てしなきコスト競争への“参戦”を意味するからです。
2000年頃から欧米のグローバル企業は既に積極的な取組を行い幾つもの成功事例を生み出しています。 加えて近年では、中国・韓国や台湾といったコスト競争が得意な国のメーカーの参入が相次いでおり、その存在感を強めています。
「最終決定までに時間が掛り過ぎる・・・。」
これは、本邦企業の進出を切望しながらも、結果として中国や韓国に先を越されてしまい若干の苛立ちを伴って現地の要人から度々発せられる言葉です。
新興国市場は変化のスピードが速く、目まぐるしく状況が変化して行きます。 このスピードに合わせて、韓国や中国などの企業は素早く決断し、情勢の変化に応じて戦術・戦略を柔軟に変えてきます。
権限を持つ人が現地にしっかり根付いて市場を理解し、情報を握り、素早く決断・実行しているからです。
慈善事業ならともかく、一営利企業としてこの様な環境(激烈なコスト競争と迅速且つ柔軟な意思決定)下で過酷な競争を勝ち抜いて行くのは至難の業といえるでしょう。
では、日本企業は何処を目指せば良いのか・・・?
ひとつのヒントがここにあります。
原発事故の影響等で中国人観光客は大幅に減少してしまったようですが、中国では家族や近所の人に旅行先の品を配る「お土産文化」が根強く、信頼性の高い日本製の家電商品を、お土産用に複数購入するケースも多く、中でも炊飯器は人気が高いと言われていました。
中国製の炊飯器は、中の釜が壊れることがあることから、高機能で美味しくご飯が炊け、耐久性に優れている日本製が人気だったそうです。
また、日本製炊飯器を使ったことのある消費者の多くは、「高級炊飯器で炊くと本当に美味しくて、口当たりも違う。 それに栄養成分も壊れないとのうわさだ」と語ります。
日本で主流となっている炊飯器は、マイコン制御で炊飯の過程で加熱方式や温度を自動調節することで理想的な白米の形・味・色・口当たり・香りを実現している一方、中国メーカーの炊飯器は単純な加熱による炊飯機能しか持たないものが多い、との評価になっています。
確かに、BOP層の約5兆円の市場規模は大変魅力的に映ります。 しかし、この層の方々はいつまでもそこに留まるのではなく、自国の経済成長に呼応して次第に「MOP(Middle of Pyramid)層」へと這い上がって行くのです。
現在約14億人がその範疇に入り、消費市場規模が約12.5兆円と推定されるMOP層を当初からターゲットとした商品開発やビジネスモデルの構築を目指すべきでしょう。 激烈なコスト競争のもたらす恒久的な消耗戦などは避けるに越したことはありません。
高級品とまではいかなくても、高い性能と品質が保証され、価格的には中間層が手の届く(低所得者層でも少し背伸びすれば手の届く)商品で、且つ日本人のある意味最も得意とするところの「人との調和」を重視した、即ち現地の文化や人々の生活を理解・尊重し、それをソフト面に活かした商品を戦略的に開発して行くことが望まれます。
正義論を振りかざせば、低い所得水準に起因する貧困、不十分な生活基盤・社会基盤等に起因する衛生面の問題等の社会的課題に直面している国の人々を、経済協力的側面から救済してあげたいが故の「BOPビジネス」推進、となるのかもしれません。
しかし、理想と現実のGAPの大きさは無視し得ず、一企業としては現実を直視しつつ自らが最も力を発揮できるところに経営資源を注いで勝負する・・・。
上述が、後進新興国に新たな成長の活路を見出す企業にとって、ひとつの指針となれば幸いです。
〈ご参考〉
BOPビジネス支援センターHP
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