2012. 8. 9 Thursday
≪ 「円高」関連倒産 ・・・ 続く ? ≫
ドル円は80円、ユーロ円は100円をしっかり回復できないまま相当の時間が経過してきた。
そのような中、2012年1月-7月の円高関連倒産は、前年同期比77.7%増の48件(前年同期27件)と勢いを増している。 内、デリバティブ損失倒産は17件(前年同期8件)と依然高水準が続くが・・・。
株式会社東京商工リサーチは、8日「2012年1月-7 月円高関連倒産動向」を公表、その中で同社は、「ただ、歴史的円高が進むなかにあって、今回の円高関連倒産の水準は過去データと比較して取り立てて多いわけではない。」
「これは、徹底したコスト削減やセーフティネット保(5号)など政策支援、さらに金融ADR制度(金融分野における裁判外紛争解決制度)などの利用増加が影響しているとみられる。」等としています。
確かに、プラザ合意(1985年9月)に基づく先進5カ国政府・中央銀行による強烈な「ドル高修正」の直後、円高関連倒産は実に年間600件を超えました。 (1986年 : 623件、 1987年 : 624件)
それとの対比でみると、2010年の77件や2011年の59件は、10分の1程度に過ぎません。
因みに、ドル円直物相場が史上初めて80円を割ったのが、阪神淡路大震災やオウム真理教地下鉄サリン事件のあった1995年のこと。
当時は、バブル景気破綻に喘ぐ中での円高進行でしたが、1995年前後でも円高関連倒産の数は意外に少ないものでした。 (1993年 : 44件、 1994年 : 57件、 1995年 : 105件、 1996年 : 48件 )
では、こちら をクリックして、「為替相場と円高関連倒産件数の推移」をご覧ください。
やはり『実効為替レート』に注目せざるを得ません。
プラザ合意後、実効為替レートは大きく円高方向に振れているのが分かります。(80 →120)
主要先進国の政策協調による人為的なドル高修正を前に、それまで円高耐性力を殆んど持ち合せていなかった輸出産業を中心に大きな痛手を被ったことは容易に頷けます。
次に1993〜1996年に目を転じると、実効為替レート指数は脅威的な水準を示していることに気付きます。
1995年4月に、直物相場が80円を割り込んだ時点の同指数は、なんと150。
当時も同様に輸出型企業にとっては厳しい時代であったことが窺えます。 一方で、プラザ合意直後の頃と比べれば、先物予約や通貨オプションの活用等によるヘッジ手法が発達してきたことの恩恵で、最悪の事態を免れた企業も多かったことでしょう。
そして、当時のドル円相場が恒常的に100円を割っていた期間も短く(約9ケ月)、その後1997年後半以降に勃発した本邦の金融危機とアジア通貨危機が為替水準を大きく円安方向にブレさせたことの恩恵( ? )で、実効為替レート指数は100程度まで急激に切り返し、よって輸出産業は息を吹き返して行ったのです。
その後、リーマンショックの起きる2008年9月まで、同指数は基本的に右肩上がり。 80前後と輸出型企業が大きなメリットを享受し得るレベルを示現していました。
ご存じの様に、ドル円・ユーロ円・豪・ドル円等の直物相場はその後崩落。 続く欧州債務危機問題等も相俟って、現在の超円高水準が根付いてしまっています。
しかしながら一方で、実効為替レート指数は、どこ吹く風の如く、100前後で極めて安定しています。
下図をご覧頂くとお分かりのように、ドル円直物レートと実効為替レートとの連動性が急激に弱まった時期は、2002年頃。
(出所 : BOJ公表データに基き、弊社作成)
日銀の用いる実質実効為替レート指数は、米欧の先進工業国のみならず、日本との競合が高い東アジアの新興国―韓国・タイ・中国など―も過不足なく含まれているため、日本の対外競争力を測るうえで十分なカバレッジを有すると考えられています。
即ち、日本の貿易構造の変化をウェイトの変化で捉えると、米欧先進工業国のウェイトが低下する一方で、東アジアの新興国のウェイトが大きく高まっており、新興国の台頭がドル円レートの水準のみならず新興国通貨の対円レートが及ぼす影響が拡大してきたからなのです。
史上類を見ない超円高水準が継続しているにも関わらず、関連倒産件数が低く留まっていることの最大の要因はここにあります。
東京商工リサーチは、レポートを「ただし、長期間に亘る円高の進展は、ボティーブローのように企業経営にジワリと打撃を与える。
円高関連倒産が2012年2月から6カ月連続で前年同月を上回って推移しているなか、今後も動向を注視する必要がある。」と締めくくっていますが、果たしてどの様な結果となるでしょうか・・・?
それにしても、最近は輸出企業を中心とする産業界からの「円高修正コール」の数がめっきり減ってしまいました。
政府・日銀による外国為替平衡操作(為替介入)に格別の効果がないことを悟ったからなのでしょうか、または、実効為替レートベースでは減益の度合いがさほど大きくないことを認識したからなのでしょうか。
それとも・・・、 消費税増税と原発再稼働、そして政権奪取が最大の関心事にも見える茲許の動きに、とっくに「見切り」をつけてしまっているからなのでしょうか・・・。
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