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2012. 8. 30 Thursday
原油高でG7が緊急声明・・・注視すべきは、イスラエル!?

先進7カ国の財務相は28日、原油高の抑制に向けた緊急声明を発表し、戦略石油備蓄を必要に応じて放出する方針を明らかにした。 米南部を襲ったハリケーンや中東情勢の緊迫化に対処するためとのことであるが・・・。

 

G7は、原油高を招いている背景について「地政学的な懸念と部分的な供給の混乱」を指摘してはいるものの、リーマンショック勃発(20089)以前の様に一方的な急騰(145ドル)や直後の急反落(30ドル)が演じられているわけでありません。

 

2010年後半以降は、むしろ概ね80110ドルで安定的に推移しているとすら言えるでしょう。



Click above to enlarge ! ( Source : StockCharts.com )
 



さて、上記の「地政学的な懸念」に関しては、G7が緊急声明を発してまで対処すべき重大な情勢変化があったのか・・・
?

 

確かに、シリア北部の主要都市アレッポや首都ダマスカス郊外では、アサド政権側部隊と反体制派の激しい戦闘が続いており、また隣国レバノンの北部トリポリではシリアのアサド政権を支持するイスラム教アラウィ派と反体制派の主体スンニ派の住民が衝突するなど影響は拡散化しつつあるようにも思えます。

 


しかし、もう少し視野を広げてみると、恐ろしい可能性に辿り着くことになります。


これまで、イスラエルがイランを空爆する場合のルートは、ゴラン高原を越えて、シリア-イラク経由になると推測されてきました。

 


ところが、新たにシリア北部にルートができる可能性が出てきているのです。

アル・ハヤト紙によると「アサド政権は、特に東部と北部において広範囲に亘る地域や国境管理所の支配権を失うこととなった。」等とされています。

 

先日、日本人ジャーナリストが亡くなるという悲劇が起こりましたが、それは北部の要衝アレッポにおいてです。 シリア北部は、隣接するトルコが自由シリア軍を支援していると伝えられ、自由シリア軍が活発に活動している模様です。

 


また、イスラエルがシリア北部を通り易い理由が、もう一つあります。

今年6月、トルコのRF-4がシリアによって撃墜されるという事案が発生しました(シリアは領空侵犯を主張、トルコは公海上を主張)


これが、トルコに自由シリア軍を援助させる理由の一つともなっているため、シリアはトルコ軍機の可能性のある航跡に対して、攻撃行動を躊躇せざるを得ない状況になっている等と言われています。

 


こうなると、イスラエルは、シリア北部を空中回廊として使える可能性が出てきます。
イラクは防空戦力が皆無ですから、イスラエルから、地中海を通り、シリア北部-イラクを経由してイランに至るルートが出来上がることになるのです。


こちら   をクリックして、「シリア北部・空中回廊(推測図)」をご覧ください。
 

 


では、何故イスラエルはイランを攻撃する必要があるのか・・・
?

諸説ありますが、今年は米大統領選挙があるため、ここでは関連させてコラムを進めることにします。

 

米シンクタンク「ニューアメリカ・ファウンデーション(New America Foundation)」のダニエル・リービ(Daniel Levy)氏は、イスラエルの強気な発言や危機感は、イランの核開発計画の急速な進展が引き金になったものではなく、政治的な要因によると指摘しています。

 

「イラン攻撃がほぼ最優先課題として扱われている唯一の理由は、米大統領選だ。 (イスラエルは)選挙の翌年に大統領職にある人物が、選挙の年の大統領と比べてはるかに強い立場から決断できることを知っているのだ。」等と。

 

一方、米共和党はこの状況を最大限に利用する構えで、ミット・ロムニー(Mitt Romney)氏は、オバマ大統領の対イラン政策を「妥協」と批判し、同氏の外交成果を削ぎ落とそうとしているのです。

 

先日、米国では大統領選に向けた共和党要領の草案が明らかとなりました。

草案の外交・安全保障分野では「米国例外主義」と銘打ち、オバマ政権の外交政策が「後手に回った」と指摘。

 

具体的には、アジア太平洋地域で覇権を目指す中国の台頭や北朝鮮、イランの核開発に対し「弱腰の対応しかできなかった」と強く批判、来年以降の国防費削減に反対していく方針を明確に打ち出したのです。

 

また、「核なき世界」を掲げた現政権の核政策について「注目すべき失敗」と断じ、強力で効果的な戦略兵器は中国やロシアに対する抑止力として必要不可欠だとしています。

 

北朝鮮に関しては「完全で検証可能かつ不可逆的な核開発計画の放棄」と同時に、人権回復を要求すると明記しました。

 


因みに、ロムニー氏は今年
7月イスラエルを訪問し、エルサレムでイスラエルの(かつて同じコンサルティング会社で働いた)ネタニヤフ首相と会談。 ロイター通信によると、ロムニー氏の側近は会談に先立ち、同国が核兵器開発の疑われるイランへの攻撃を決断した場合、ロムニー氏は「その決断を尊重する」と述べた等と報道されています。

 

仮に、イスラエルが単独軍事攻撃に踏み切れば、米国の戦略にもオバマ大統領の政治的な立場にも、重大な影響を及ぼすことになるでしょう。

 

米国が再び中東で大きな戦火に巻き込まれることになるのは確実で、原油価格は急騰。 ようやく軌道に乗り始めた米経済の回復基調も妨げられ、雇用の伸びも鈍化することが予想されます。 これらはいずれも、オバマ氏の大統領再選には不可欠な要素なのです。

 

イスラエルにイラン攻撃の自制を求め、ネタニヤフ氏との関係もぎくしゃくしているオバマ米大統領との差別化を図ろうとするロムニー氏が、米国内の保守派に多い親イスラエル勢力の支持固めに入ったことは確実でしょう。

 


シリア北部が「空中回廊」として開けたことで、イスラエルによるイラン空爆の可能性がこれまでの何倍もの確率で高まったことが、今般の唐突な
G7による共同声明に直結したと考えることは極めて自然いや、必然なのです。



( Source : イスラエル国防軍空軍(IDF/AF) )

 

私は、国際的な軍事情勢専門家ではありませんので、仮にイスラエルによるイラン空爆が実行されるとした場合、どのタイミングでどの様な体制で等といったことを推し測ることはできません。

 

しかし、先日(24) 国際原子力機関(IAEA) は、イランの核兵器開発疑惑についてイラン当局と協議を行ったものの、「この日は集中的に話し合ったが、イランとIAEAとの間の重大な隔たりは埋められず、合意には達しなかった」(ヘルマン・ナカーツ事務次長)ことや、米大統領選(116)まであと2ケ月しかないことは事実なのです。

 

 

状況次第では、ホルムズ海峡の封鎖も起こり得るでしょう。
世界で消費される石油の
2割、日本の石油に至っては全消費量のなんと8割もが通過する場所だと言われています。

 

地政学上の観点から、我が国はどうしても「尖閣諸島」「竹島」「北方領土」等に目を奪われてしまいがちですが、経済活動全般に与える影響の大きさは比較にならず、今回ばかりは代替手段も含め対処方法を真剣に考えておくべき時期であると考えています。

 

無論、その様な事態が現実に起こらないことを、切に願ってはいるのですが・・・。




≪ ご参考 ≫

財務省 : G7財務大臣の声明(2012年8月29日)



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