2011.5.6 Friday ≪「通貨安競争」の勝者は・・・?≫
「USドル指数」の下落傾向が続いています。 5月4日には、2008年7月(リーマン・ショックの2ケ月前)以来、約3年振りに73.00を割込みました。
16年前に米ドル円相場が80円割れをみせ、協調介入に呼応して当時のルービン財務長官が「強いドルは国益に適う」と宣言した時の同指数は82.00前後。
現在の歴史的ドル安放置(容認)の背景には何があるのか・・・。
先週、FRB(米連邦準備制度理事会)はFOMC(連邦公開市場委員会)を開催し、大方の予想通りに、政策金利を現行の0~0.25%に据え置くとともに、「QE2(追加的量的緩和政策)」を当初の計画通り6月に終了させることを決めました。 同時に、現在の超緩和的な金融政策を当分変更しないとも明言しています。
一方で、欧州中央銀行(ECB)は4月7日の理事会で、2009年5月から続けている年1.0%の政策金利を年1.25%に引き上げることを決めています。 お膝元ではソブリン・リスクが燻り続けている中にあっても、「中期的な価格(物価)の見通しは、上振れ方向にある」とし、インフレファイターとしての姿勢を示しました。
また、4月18日には、米格付け会社スタンダード・アンド・プアーズ(S&P)が、米国の長期格付け「AAA」のアウトルック(見通し)を、格付けが下方に向かう可能性が上方向よりも高いことを示す「ネガティブ」としました。増大する財政赤字及び債務への対応をめぐり、指導者らが合意に達しない「重大なリスク」があると説明。長期格付けを引き下げる確率は今後2年以内に3分の1としていました。
これだけでも昨今の米ドル安加速を説明するには十分であると思えますが、それを放置する米国の狙いはいったいどこにあるのか・・・。
さて、調整過程を経つつも金・銀・石油等のコモディティ価格は上昇基調にあり、一部には「ミニ・バブル」とも言われています。 米国発の過剰流動性のグローバルでの拡散がこの事象をもたらしていると考えられます。 即ち、世界に、特に新興国にインフレを植え付けているとも言えます。
最近のブラジル、ロシア、中国、インド等で予想を超えるタイミングでの利上げに加え、GW中にベトナム、フィリピン、マレーシア等も相次いで政策金利を引き上げました。
中でも、GDP成長率が高く、賃金インフレ圧力が高い新興国は追加的な政策金利の引き上げを強いられることになるのです。
すると継続的な利上げ政策が嫌気され、それらの国の株価の上昇は抑制されてしまうことになります。
さて、ECBがインフレ抑制のため動き始めたことは前述した通りですが、一方で米国は自国経済の足腰がより強固に回復するまではできる限り超緩和的な状況を温存しておきたい、もっと言うならば、コア消費者物価指数が安定している限りインフレ退治は新興国に任せてしまえば良い等という戦略をみて取ることができます。
通貨安を伴って世界に流出して行ったドルは、コモディティ向けの投機資金の他、本来であれば新興国の株式市場に流れ込み株価を押し上げる予定であったものの、前述の理由で結局米国に、それも株式市場に還流するといったフローが出来上がっているのです。
裾野の広さから個人消費の押上げの寄与度が高い住宅市場の回復が緩慢で、従って雇用環境も大きな改善がみられない中、過剰流動性と資金還流による株価上昇がもたらす資産価値増大効果は消費市場にとっては景気拡大への重要なテコであるとの認識でしょう。
昨年9月の政府・日銀による米ドル買い円売り介入あたりから盛んに「通貨安競争」なる動きがみられました。
今のところ、通貨安による輸出ドライブと通貨安が引き起こすインフレの芽を新興国に摘ませることに成功している米国に軍配が上がっていると思われます。
5日の欧米市場で米ドル円相場は、東日本大震災後の協調介入以来、初めて79円台で取引されました。 その後出て来る本邦の政府要人のコメントは「注意深く見守る」等と繰り返すばかり・・・。
大震災後の国内外に向けた対応もそうでしたが、この国には国策が存在しないのかと憂慮するのは私だけではないでしょう。
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