2012. 1. 17 Tuesday
≪ 控除できる保険料は「本人負担のみ」 by 最高裁 ≫
最高裁は13日、所得税法34条2項が定める一時所得の「収入を得るために支出した金額」に該当するためには、収入を得た個人が自ら負担して支出したものといえる場合でなければならないと解釈。
それ以外の者つまり法人が負担した保険料は含まれないと判断、一審・二審判決を取り消す逆転判決を下しました。
生命保険契約について、契約者・被保険者・死亡保険金受取人・満期保険金受取人・保険料負担者がそれぞれ異なる場合、所得税・法人税等の各税目間で異なる課税関係が発生しており、係る税務は益々複雑・多様化してきています。
本件は、養老保険契約の保険期間の満了に伴って支払われた満期保険金額を一時所得として申告する際、保険料の本人負担分に加え法人負担部分も一時所得の「収入を得るために支出した金額」として控除できるか否かの判断が争われてきた事件です。
かいつまんで概要を説明すると・・・、
納税者らが経営する法人A社が契約者となり、納税者らとA社が保険料を各2分の1ずつ負担した養老保険契約の満期保険金を受領した納税者らが、A社が過去に負担した部分も含む保険料全額を、所得税の一時所得の金額の計算上「収入を得るために支出した金額」として控除し、確定申告をしました。
しかし、A社が負担した2分の1の保険料は、控除できないとして更正処分等を受けたため、その取消しを求めて提訴し、一審の福岡地裁が請求を認容して課税処分の全部を取り消したため、税務署長らが控訴したという経緯にありました。
福岡高裁は、所得税法施行令183条2項2号本文は、生命保険契約に基づく一時金が一時所得となる場合、保険料又は掛金の「総額」を控除できるものと定めており、この条文を素直に読むと、福岡地裁判決が判示するとおり、所得者本人負担分に限らず、保険料等の全額を控除できるとする解釈を支持したのです。
よって、原処分を取り消す旨の判決が言い渡されたため、原処分庁側が控訴、上告して一審判決の取消しを求めてきていました。
そのような中、最高裁は事実関係を整理した上で、「保険料のうち法人負担部分は所得税法34条2項の『収入を得るために支出した金額』に当たるとは言えず、保険金に係る一時所得の金額の計算の際に控除することもできない」と指摘、「納税者側の請求を認容した原審の判断には判決に影響を及ぼす明らかな法令違反がある」と判示したのです。
ところで、国税庁は昨年11月24日、生命保険協会に対し法人向けガン保険について「税務取り扱いの見直しを前提とした検討を行う」旨の通達を行ったとされ、生保各社は急遽、販売代理店に販売停止や、商品説明方法に注意を促す通達を出すなど対応に追われた等と言われています。
本来、この保険は、事業主や社員の治療費など福利厚生を目的とするものです。
しかし、一定の条件を満たせば保険料を全額損金扱いできるため、課税対象となる利益を保険料に回して利益を圧縮することで節税できる商品として販促活動が行われてきました。
また、解約時や失効時に契約者に払い戻される解約返戻金として「帳簿外に利益をプール」することも可能で、この解約返戻金の割合は80~90%、商品によっては100%になるケースもあった模様です。
無論「三権分立」の思想は不動のもので、国会・内閣・裁判所の3つの機関は、他の機関が暴走しないよう互いに抑制と均衡を働かせています。 また、各機関の独立性を保つため、他の機関の行為を尊重し不当な介入は避けるべきだとされています。
また、そのことにより、「権力の濫用を防ぎ、国民の権利や自由を守る」ことを目的としているものです。
本コラムでは、それらの有効性について議論を促そうとするものではありませんが、やや穿った見方をするならば、「相互牽制・介入抑制」機能は尊重されてはいるものの、三権が「タッグを組むことまでは排除されていない」とも考えられるのではないかという点のみ問題提起しておきたいと思います。
〈ご参考〉
2012.01.13最高裁判決、平成21年(行コ)第12号 判決文
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