2012. 1. 25 Wednesday
≪高所得者は、30%の所得税を収めるべき!・・・減税?≫
いえいえ、増税方針です。 バラク・オバマ米大統領は24日、上下両院合同会議で一般教書演説を行い、高所得者に対する最低30%の所得税の義務付けを議会に求めました。
これに対し、会場の一部からは拍手が起きた模様です。
大統領は、「ウォール街が自らのルールに基づいて行動することが容認されていた日々に戻ることはない」、「億万長者への補助金をワシントンは止めなければならない」と言明。
その上で、「私や多くの議員は公正な額の税金を納めるべきで、税制改正が必要だ。また年収100万ドル(約7800万円)以上の高所得者は、30%以上の所得税を収めるべきだ」等と主張、加えて配当収入やキャピタルゲインに対する課税の抜け穴を防ぐよう求めたとされています。
( Source : NASA )
大統領選の共和党候補指名を争うミット・ロムニー前マサチューセッツ州知事は同日、2010年と11年の納税申告書をネット上で公開しており、税制にて優遇されていたことに反発の声が挙がっていました。
レースの鍵を握るとされる31日のフロリダ州での予備選を前に、最大のライバルであるニュート・ギングリッチ元下院議長らが、ベンチャー投資家として巨万の富を築いたロムニー氏に対し、納税申告書の公開を強く求めていたことが背景にあります。
納税申告書によると、年収は10年が約2,170万ドル(約16億8,500万円)で、推定納税額は約300万ドル(約2億3,300万円) 。よって、年収に占める割合は僅か13.9%です。
(因みに、11年の年収は、推定2,090万ドル(約16億2,300万円))
これは、所得の最大35%が連邦税として差し引かれてしまう大半のサラリーマンよりもはるかに低い税率となっているとのこと。
ロムニー氏は、23日に行われた討論会で、「成功を収めたことを謝罪する必要はない」と従来の主張を繰り返すに留めた模様です。
そこで、オバマ氏は、上述の発言に加え更に、「毎日ルールに従って賢明に働き、行動している多くの米国民は、同じ政府や金融システムの恩恵を受ける権利がある。トップから底辺にいる人まで、同じルールを適用すべき時がやってきた」と述べ、『バフェット・ルール』と呼ばれる富裕層への増税を含めた税制改革を打ち出したのです。
一方、大統領は「国内約98%にあたる年収25万ドル以下の世帯で税率が上がるべきではない。 生活費は上昇し、賃金の上昇もなく苦しんでいる」と発言、大統領選挙に向け中間所得層へのアピールにも余念がなかったようです。
こちらは、財務省公表の「個人所得課税の税率構造の国際比較(イメージ)」です。。
上図をクリックで、拡大します。
米国の場合、現行の所得税は、給与収入等に応じて10%〜35%までの6段階の構造を取っており、ニューヨーク市の場合、地方個人所得税を付加すると、適用される最高税率は47.8%になります。
よって、オバマ大統領が述べた「30%以上の所得税を収めるべきだ」の30%は、ロムニー氏の開示した年収に占める割合は僅か13.9%であった(2010年度推定値)ことを殊更強調し、『最低実効税率30%』を主張したと解釈すべきでしょう。
尚、我が国でも、去る1月6日に決定された「社会保障・税一体改革(素案)」では、課税所得5,000万円以上の高額所得者に対しては、(2015年度分から)所得税の適用最高税率を5%引き上げ、45%とすることが盛り込まれています。
そのような中、内閣府は24日の閣議に「経済財政の中長期試算」を提出。
消費税率を15年10月に10%に引き上げても、財政健全化の指標である「基礎的財政収支」(国と地方の合計)の赤字幅は15年度に16.8兆円と、名目GDPの3.3%、20年度で16.6兆円(同3%)となることが明らかとなりました。
それらを材料に、野党は年金の抜本改革案の提示を求めていること等から対立の激化も予想され、今次国会での法案成立には不透明感が漂っています。
但し、確かなことは、日本にせよ米国にせよ、財政事情の苦しい国々にとって、富裕者層に対する増税圧力が益々高まるであろうことと、且つまたそれらを巡る諸施策が政権奪取の道具として乱用されてしまう様な『儚い性(さが)』の存在を否定し得ないことなのです。
〈ご参考〉
米大統領 2012年一般教書演説原稿
2012.01.06 閣議報告 社会保障・税一体改革素案
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