2012. 11. 27 Tuesday
≪御社の経営課題を3つ挙げてください!≫
先日、一般社団法人日本能率協会は、「当面する企業経営に関する調査」結果を公表した。 過去から「収益性向上」「売上・シェア拡大」「人材強化」が大きな柱であることは述べるまでもないが、他の課題も含めそのトレンドを時代背景を加味しながら時系列で追いかけてみると、興味深い姿が浮び上がってくる。
同協会は、「企業戦略の立案や経営課題解決に役立つ情報を提供することを目的」に、1979年よりこの様な調査を実施しており、今年は34 回目となる。
例年その年の梅雨開け前後に、全国約4,000社の経営者に調査票を送付して行われるもの。
先ずは、2012年の調査結果を解説しよう。
前年(2011年)対比での特徴は・・・、
・ 1位「売り上げ・シェア拡大」(54.9%)、 2位「収益性の向上」(48.0%)、 3位「人材の強化」(40.0%)となり、上位に変動はなかった。
・スコアを上げているのは、「グローバル化」(昨年6位17.1%→今年5位19.7%)、「財務体質強化」(同9位11.8%→6位17.0%)であった。
・また、「技術力の強化」「現場の強化」「事業再編」「ブランド価値向上」の課題認識が高まっている。
デフレギャップが依然として大きい中で進展した円高に苦悩している姿を見て取れ、それを打開せんがため列記された経営課題であると、頷くことができよう。
では、こちらを クリックして、当該調査結果の推移をご覧頂きたい。
予め各調査実施時期についてコメントしておくと・・・。
2003年5月下旬、りそな銀行(当時)への公的資金投入による実質国有化が決定され、バブル経済崩壊後から長く続いた本邦金融機関の不良債権償却等に伴う過小資本問題が一段落したとの認識から、消費者マインドは好転し、また株式市場は活況を取り戻し、日経平均株価でみれば、8,000円割れで大底を打ったと思われた時期であった。
2004年の調査は、その様な環境の中、7〜8月に実施された。
2007年調査は、所謂「サブプライム・ショック」(8月9日のBNPパリバ銀行傘下の三つのファンドの資金凍結を端緒として、大規模な世界同時株安が発生)直前時期に行われている。
2009年は、もはや説明するまでもない「リーマン・ショック」(2008年9月15日、米投資銀行リーマン・ブラザーズ破綻)後の世界同時不況突入下での調査である。
その後、時を経て、東日本大震災及び関連して起きた原発事故、欧州諸国債務危機、BRICSなど先進新興国の景気減速感が漂い始める中、2012年の調査は実施された。
さて、企業の経営課題を時系列で追いかけ、且つまた各々の課題を総合的・有機的に分析することで、興味深い深い実像、引いては真の経営課題を浮き彫りにしてみる。
先ず目に止まるのは、冒頭にて触れた通り、「グローバル化・同経営」の持続的上昇である 2009年時点での2012年予想対比でも、2012年実績は上振れしている。
次に、「売上・シェア拡大」であるが、一般的傾向であった「収益性向上」を凌いで断トツの1位となっている。 グローバル化等と同様に、2009年予想時点よりも喫緊の課題となったことが窺える。
一方で、「社会的責任(CSR)」は一貫して、「コーポレートガバナンス強化」は2007年調査以降継続的に比率を下げてきている。
また、「ローコスト経営」は、2007年に一旦比率を低下させたものの、2009年には再び順位を上げ、その後2012年にかけては再び大幅な低下をみている。
では、それらから、何を読み解くことができるのか・・・。
筆者は、次の様に推測している。
先ず第一に多くの企業は売上の低迷や減少に喘いでいる。 製品や商品が売れないことには利益も出ない。 少なくとも国内では、景気の長期停滞・可処分所得の伸び悩み・少子高齢化の進展がもたらす絶対消費量の減少・長引くデフレ現象・新興国からの廉価商品輸入増大等が相俟って、想定通りの売上を計上できず、従って縮小しつつあるパイ(シェア)の奪い合いを繰り広げるなどの消耗戦が展開されている。
そこで、販路拡大や地産地消を求めて海外進出を模索せざるを得ない。 しかし、海外では消費者の嗜好や商習慣の違いに直面、また、現地を生産拠点とするのか、単なる販売拠点とするのか、はたまた研究開発まで行うのか。
更に、物流ルートをどうするか、現地で有能な人材は採用できるのか、近年人件費の高騰や関連したストライキの続発等々、数多くの課題が存在してしまう。
結果として、「社会的責任(CRS)」や「コーポレートガバナンス強化」は後回し。
大手内視鏡メーカーや大手製紙会社等で投資家の信頼を一挙に覆す様な事態が発生しても「大したお咎め」もないのだから「まあいいか」といった具合に・・・。
そして、「ローコスト経営」が2009年対比で大幅に比率を落としていることにも留意する必要がある。 見方によっては、既に「ローコスト・オペレーション」の体制を整えたのだから特に経営課題としての優先順位は低い、とも考えられるかもしれない。
しかし、売上が伸び悩み収益が逼迫する中では、一段のコスト削減を断行せざるを得ないことは厳しい現実で、するとこの項目の比率の低さは、既に「IT化と人件費削減を中心とするローコスト経営体制を整備してしまった」が故、即ち、財務体質強化策としてのこのカードをほぼ使い切ってしまったが故の結論が出現した結果と考える方が自然ではなかろうか。
その様な状況の中にあって、「顧客満足度向上」の数値が一定の割合を保っていることは幸いである。 売上・収益至上主義に邁進没頭すればするほどこの課題は重きを失い、中長期的にみれば結果として正反対の効果を招くからである。
ところで、例年最上位に掲げられる「収益性向上」と「売上・シェア拡大」であるが、これは他の項目とは峻別して考える必要があるだろう。
何故ならば、その2つは企業が永続的成長を遂げていることの証しであって、且つ永遠に追求しなければならない企業の宿命としてのテーマなのだからである。
従って、筆者は、その2つを追い求め確実性を持って実現して行くための経営課題(手段)が他の項目であり、それらをひとつひとつ克服することで初めて理想物を手中に収めることができるものと考えている。
国内の政治・経済情勢はもとより、グローバルレベルでも不透明感は払拭されてこない。 企業経営者は、これまで以上に慎重ながらも積極的な舵取りを迫られている。
こうした中、最も避けなければならない事項は、「近視眼的」な経営戦略の策定ではなかろうか・・・。
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