2011. 7. 1 Friday
≪本邦の増資手法に改善を要求・・・by ACGA≫
米欧アジアの機関投資家が参加するアジアン・コーポレート・ガバナンス協会(ACGA)は、金融庁に増資手続きの改革を求める意見書を提出、新株割当先を企業側に開示すると共に、新株販売期間を短縮して増資を利用した不審取引を抑止するよう求めた等と報じられています。
「公募増資が大幅な希薄化をもたらす場合には、株主の承認を求めるような仕組みがあって然るべき」とは、ACGA事務局長ジェイミー・アレン氏の言・・・。
日本株に長期投資する海外投資家が日本市場の増資の進め方に不満を強めているのは、昨年相次いだ大規模増資の際に増資情報を事前に入手したヘッジファンドの空売りが相次いだためで、保有株に大きな損失を抱えた海外投資家は日本固有の増資ルールが投機筋につけ入る隙を与えたと批判。
日本の増資の進め方を透明で公正な進め方に変えることを求めています。
新株を発行する企業が株価の大幅な下落を経験するという傾向は、とりわけヘッジファンドによる空売りで増幅されていると言われています。 ヘッジファンドは、新株発行のニュースが出ると株価下落に賭け、新株が割り当てられた時点で株式を安値で買い戻す。
その差額で利益を得る等のオペレーションを行っているからです。
ヘッジファンドは、自らは新株の適正な価格水準を設定する役に立っていると主張しています。 が一方で、規制当局は懸念を示しており、新株発行の発表から価格設定までの一定期間、空売りを禁止することを提案、物議を醸してきました。
ところで、ACGAが指摘したのは海外とは大きく異なる日本の増資手続きの問題点。 新株割当先の投資家リストを引受証券会社が発行会社に開示しない日本の慣行を批判しているのです。
海外と同様に割当先リストを発行会社に見せれば引受証券は短期投資が目的のヘッジファンドに新株を割り当てるのが難しくなるとの主張です。
日本では新株の販売期間を7~15日と義務付けていますが、これを5日以内に短縮することも合わせて提案。 これにより、増資期間中の投機筋の空売りを抑制することが可能となるとしています。
また、発行済み株式が10~20%以上増えるような大規模な公募増資を実施する際は株主総会の承認を義務付け、株主の利益を保護することも要求しています。
さて、かのT電力は、昨年10月に29年振りのエクイティファイナンスによる資金調達を行い、話題を呼びました。 T電力の増資発表は、ファイナンスとは「最も縁遠い」ともみられてきた代表的なディフェンシブ銘柄だけに、発表直後から「超低金利下に、なぜ社債で調達しないのか」、「よりによって、なぜ9月末発表なのか」等といった批判が渦巻き、某外資系証券会社のレポートには「この株主軽視的な公募増資によって、外国人の日本株式市場に対する不信が高まった」とまで書かれてしまいました。
新株を発行する企業は、より多くの利益を稼ぐために調達した資金をどう使うのかを組み込んだ実現可能性の高い成長ストーリーを投資家に提示し納得させなければなりません。
清水正孝社長(当時)は、中長期的に見て財務強化をしつつスピード感を持って積極的な投資をしたい」と話し、あくまでも有利子負債の削減を目指すのではなく、海外事業によるリスク性投資資産を増やすぶん資本の厚みを持たせる狙いがあったとの解釈がなされています。
= T電力のこれまでの変遷 =
( 拡大図は、こちらをクリック)
( 株式会社 ダイヤモンド社 提供 )
昨秋に同社が発表した「2020ビジョン」では海外事業を中心に最大1兆円を投じることを明言。 更に低炭素化に向けた積極投資も行い、徹底した守りの経営から攻めの経営への転換を宣言していました。
その矢先に勃発した東日本大震災・・・。
伴って誘発された人災としての原発事故・・・。
去る28日は同社の株主総会が開催され、所要時間は何と6時間9分、出席株主数9,309人と報道されました。 株主が提案していた原発撤退議案が否決される一方で、取締役選任など会社提案の議案はすべて可決される結果となり、「大株主の委任状」が「印籠」としての役割を果たしたようです。
因みに株主総会当日の終値は316円。 前述の増資発表日(9月29日)の終値は2,105円、東日本大震災当日の終値は2,121円でした。
投資は自己責任が基本とは言え、株主総会の運営手法等をみても納得するには程遠いとの印象を抱いた株主も数多くおられたことでしょう。
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