2011. 8.30 Tuesday
≪「配偶者名義」の株取引が隠れ蓑になり易いのはなぜか?≫
東京証券取引所など全国証券取引は、この程「第三回全国上場会社内部者取引管理アンケート」結果を公表しました。 7月上旬、エルピーダメモリへの国の金融支援策に絡み、インサイダー取引をした疑いがあるとして、経済産業省資源エネルギー庁前次長が証券取引等監視委員会の強制調査を受けたと報道されました。「妻が勝手に取引しただけで自分は知らない」と容疑を否認していたと記憶しています。
市場関係者によると、証取委の調査に前次長は「エルピーダの株を取引した時点で既に新聞では資本増強が報道されていた」と説明しているものの、配偶者名義の口座ではエルピーダ社株の取引が複数回繰り返されており、同委は配偶者の関与の有無や取引時期について慎重な調査が進められた模様です。
さて、「インサイダー取引」を平易に定義するならば、次の様になります。
①会社関係者が、
②未公表の重要事実を知りながら、
③株式等を売買すること。
興味深いのは、①、②、③各々個別の独立した行動は、倫理的にも問題になることはありませんが、この三つが同じタイミングで起こると犯罪になってしまうという点です。
それらを背景に、「うっかり」インサイダー取引が発生してしまうことがあります。
ですが、インサイダー取引規制において、不当に利益を得る目的といった主観的要件は設けられておらず、また、インサイダー取引規制に違反することを知らなかったとしても、故意が否定されるものではないため、「うっかりインサイダー」であっても、インサイダー取引規制違反となると指摘されており、会社サイドは、それをも踏まえ防止体制の構築と運用を図る必要があるでしょう。
因みに、インサイダー取引の対象となるのは、
・会社の役員、従業員
・役員の配偶者および二親等内の血族
・帳簿閲覧権を有する株主(総株主の議決権の3%以上の株式を保有する株主)
・関係会社、関係会社の役員及びその配偶者(親会社・子会社の役員等を含む)
・上記の会社関係者でなくなった後一年以内の者等
そして、上記の者から情報を受領した者も同様に規制の対象となります。
では、「第三回全国上場会社内部者取引管理アンケート」結果に触れたいと思いますが、全体では71ページにも及ぶ資料なので、本コラムでは「株式売買の管理」を採り上げ、「なぜ、配偶者名義の株取引が隠れ蓑とされ易いのか」に迫ってみたいと思います。
先ず、こちらをクリック頂いて、「問9. 自社株売買の管理手続」にお答えください。
「全国取引所」は、役職員による自社株式等の売買管理制度を設けることは法令によって直接要求されているわけではなく、これらを設けるか否か、設ける場合にどのような内容とするかについては各社の判断に委ねられています。
しかしながら、自社の役職員が法令の理解不足等に起因して不注意により内部者取引規制に違反することを未然に防止するという観点からは、許可制や事前届出制に有用性が認められることから、各上場会社の実情に応じてこれらの制度を設けることの要否を検討することが望まれます。」等としています。
では、問9.の回答状況を見てみましょう。 ⇒ こちらを(①、②)クリック。
如何でしたか・・・?
当該会社の役職員まではインサイダー取引防止に向けた対応策が高い割合で設けられていることが見て取れますが、派遣社員・アルバイト、退職後1年以内の者への対応策の整備が十分ではないことを認識することができます。
そして、配偶者・同居家族に至っては、「無関知型」が約45%に達しています。
次に、同様に「問 10.
他社株売買の管理手続」をお答え頂きましょう。
⇒ こちらを、クリックしてください。
取引先からの情報伝達等により、他社の株売買についても会社関係者や情報受領者となる可能性があることから、一定の規制を設けておく合理性が認められるものの、「財産権」との競合により、過度な規制にならないよう注意が必要です。
例えば、外部の取引先の重要事実を当初からすべての役職員等が知るわけではないことから、特定の重要事実に関連のあるプロジェクト等に参加している者に対してのみ一定の規制をかけるなど、重要情報に接する可能性に応じてレベルを変えた対応を講じることが考えられます。
では、問10.の回答状況を見てみましょう。 ⇒ こちらを、クリック。
当該会社の役職員であっても、「無関知型」の割合が50%弱に及んでいます。
また、配偶者・同居家族のそれは、約65%に達しています。
が一方で、配偶者等に関して、「内部者取引を未然に防止するための方策としては情報管理の徹底がまず重要であり、不必要に売買管理の範囲を拡大することのないよう注意が必要です。」とも指摘されています。
もう、お分かりでしょう。
配偶者等のインサイダー取引に関しては、その防止に向けた対応策が元々緩やかである上に、自由権のひとつであるところの財産権の不必要な侵害を回避することを要し、ガチガチに規制してしまうことは物理的にも困難なのです。
よって、ここに間隙が生じ、「隠れ蓑」として活用され易いこととなります。
また、日常の会話の中で何気なく決定事項等の重要情報に話しが及んでしまうこともあり、嗅覚の優れた同居家族で株式投資等に明るい人であれば、すかさずパソコンに手が伸びる等といったことも有り得るのです。
さて最後に、インサイダー取引においては、「利益が生じたか否かを問わず」刑罰の対象となります。 つまり、しめしめと思って取引を実行し、想定外の事象によって損失を出してしまっても「お咎め」を受けるということです。
「泣きっ面に、蜂」ですね。
相場も生き物ですから、常に悪者に軍配を上げることはないのです。
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(注)添付資料は・・・、
「第三回全国上場会社内部者取引管理アンケート結果を一部抜粋しています。
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