2011. 5. 21 Saturday
≪海外MA・・・「望ましい取り組み」≫
日銀の白川総裁は20日の金融政策決定会合後の記者会見で、国内企業による海外企業のM&Aが広がっていることについて「日本国内の貯蓄を有効に使うことは大事だ。
日本企業が得意分野を生かしながらどう発揮するかを考える点で、しっかりとM&Aに取り組むのは望ましい」との考えを表明しました。
尚、18日には、M&Aを促すための「改正産業活力再生法」が、参院本会議で与野党の賛成多数で可決、成立しています。
また、総裁は、本邦企業によるM&Aの背景には「円高や緩和的な金融環境が要因となっている」と述べた上で、円高の影響については「短期的に輸出を中心に景気を下押しするが、長い目で見ると海外の資産を安く買えるといったメリットもある」と説明しました。
国際商品価格の上昇が一服していることについては、新興国の成長減速と(商品取引にかかる)証拠金の引き上げが要因。最近の価格上昇が大きかったから、自然な修正が証拠金率の引き上げによって生じたとも言える」との見方を示しています。
それはつまり、現行レベルであっても為替相場が安定している限り円を押し下げる様な介入(外国為替平衡操作)を行う意思のないこと、及び国際商品価格が高止まりしている中での円安進行がもたらす弊害を強く懸念していることを示唆していると言えます。
さて、本邦企業による海外企業の合併・買収(In-Out MA)はこれまでどの様な推移を辿ってきたのでしょうか・・・。
こちらは、株式会社レコフが公表している「1985年以降のマーケット別M&A件数の推移」です。
(In-In:本邦企業同士のMA。 Out-In:海外企業による本邦企業へのMA)
In-In MAは、1985年以降2006年頃まで、即ちサブプライム金融危機が勃発する直前まで堅調に伸びてきたものの、続くリーマン・ショック等の影響を受け急速にその勢いが失われてしまったことが見て取れます。
一方で、In-Out MAは、1990年前後(バブル景気のピーク)に盛り上がりをみせた後、約10年の小康状態を経て、2000年(IT革命前後)から件数は持ち直し、昨年まで概ね年間350件程度で推移しています。
さて、この約25年間に米ドル円相場は、プラザ合意(1985年9月22日)前の260円レベルを高値、東日本大震災直後の76円台を安値に、その値幅の絶対値は180円超にも及んでいます。
無論、一方的に米ドル安円高が進展したわけではなく、1990年には160円台を回復、1995年には史上初の80円割れ、日本金融危機が訪れた1998年には145円超えまで円安が進むなど乱高下をみせました。
2000年以降は概ね100円~125円のレンジ内で取引がなされたものの、サブプライム・ショックを皮切りとした一連の金融経済危機の中、現在は80円台前半での取引に至っています。
ここで、In-Out MAの件数の増減と米ドル円相場の相関関係の有無について考察してみたいと思います。 2000年前後に勢いを取り戻した時期の為替水準は概ね105円程度。
緩やかに件数を減らした2003年前後の為替レベルは120円超え。 再び増勢を取り戻した2004-2005年の相場水準は再び105円前後。 この時期には、一定の相関関係を見て取ることができます。
一方で、2006年以降はというと、為替のレベルとの相関関係は薄く、恒常的に350件程度のMAが成立しているようです。 2008年以降の一段と急激な円高の進行と(米ドル安の)安定推移を予測することは困難であった為、常に為替水準に値頃感があったからではないかと考えることもできます。
為替水準のみをもって、海外企業の買収に動くとの決断が下されるということはありませんが、決断に際して考慮すべき事項のひとつの大きな要素であることは否めません。
例えば、米国企業を50億ドルで買収する計画であれば、1ドル80円ならば4,000億円で済みますが、1ドル100円であれば5,000億円となり、1,000億円もの差が生じてしまうのです。
これはTOBに際し、25%のプレミアムを余計に付加することに等しくなります。
さて、冒頭で述べた「改正産業活力再生法」は、国際競争力の強化を目指した民主導の戦略的な産業再編等を促して行くこと等を目的に、
①公正取引委員会との協議制度の創設
②会社法の特例による組織再編手続きの簡素化・多様化
③産業再編等を行う事業者に対する長期資金の低利融資制度の創設
等の措置が講じられています。
これらによって、スピーディかつスムーズに大型合併やTOBの実現が促され、国際競争力の強化につながることを期待しています。
私見ですが、米ドル円為替相場は、1995年の79円台と今次示現した76円台とで15年余りかけて歴史的な「ダブル・ボトム」を完成させたと考えています。
この水準を好機と捉え、将来の円安が事業活動や生活水準に及ぼす(相対的に)好ましくない影響を極小化すべく行動を起こしておく必要がある。
その様なタイミングにあることを見過ごしてはならないのです。
〈ご参考〉
日銀総裁記者会見要旨
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