2011. 9. 24 Saturday
≪「リーマンショック」前夜に酷似する、米ドル指数の形状≫
3年の時を経ても、未だ金融市場の混乱は終息の兆しをみせておらず、欧州債務危機問題はいよいよ新興国の金融・通貨政策に影響を及ぼし始めています。
国際競争力確保のために自国通貨安誘導を進めてきた新興国はスタンスを一転、下落を防ぐための自国通貨買い介入に踏み切っている模様です。
20カ国・地域(G20)財務相・中央銀行総裁会議は22日、世界経済に関する共同声明をまとめ、ユーロ圏に関しては、次回G20会議が開かれる10月中旬までに「欧州金融安定基金(EFSF)の柔軟性を増す」との見通しを示し、ソブリン問題で迅速な対応を実施すると表明したものの、市場参加者からは「十分に不十分な内容だ」等との指摘がなされています。
その様な中、23日ポーランド国立銀行8中央銀行)は、下落を続けるポーランド・ズロチを下支えするためのズロチ買い・ドル売り介入を実施しました。
これに先立ち韓国銀行、インド準備銀行、ロシア中央銀行など各国の中央銀行が各々自国通貨買いの防衛介入を実施したのでは、との観測が出ていました。
経済の好調さが持続し、つい最近まで通貨レアルの上昇抑制に躍起となっていたブラジルでさえこの4営業日でレアルが10%を超えて下落、22日には外国為替スワップ取引で27億ドルを売らざるを得なくなったと言われています。
では、何故各国通貨当局は、最近までの世界通貨切り下げ競争スタンスを一変させたのか・・・?
さて、こちらは、過去3年間の米ドル指数(Dayly)のチャートです。
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( Source : StockCharts.com )
2011年の年初来、一貫して下落してきた同指数は、5月に72.70で底をみた後、概ね73.00~76.00内でボックス圏を形成していました。
即ち、ドル全面安の状態で安定していたと言えます。
それが、9月中旬には、180日単純移動平均(MA180:青)を上抜き急上昇、23日の終値は78.50と600日単純移動平均(MA600:赤)近辺にまで回復しています。
無論その背景には、スイス中央銀行による対ユーロでの為替目標値の設定やギリシャのデフォルトを相当程度に折り込んで急落したユーロ相場があります。
チャートからお分かりのように、米ドル指数を分析して行く際に、「MA600」は相場の分岐点的役割を果たしてきています。 すると、現在は、ドル・ニュートラルに回帰したとみなすことができるわけです。
ところで、リーマンショックから丁度3年が経過しましたが、驚くことに、今の米ドル指数の推移は、その勃発前の形状と極めて酷似しているのです。
では、こちらをご覧ください。
(クリックで拡大)
( Source : StockCharts.com )
2006年後半以降、同指数は一貫して下落。 2008年3月~8月にかけて概ね72.00~74.00のボックス相場を形成しました。 8月中旬にボックス圏を上抜けした同指数は、9月12日に80.15を示現して「MA600」と交差、目先のピークをつけています。
そして、週末開けの9月15日、リーマン・ブラザーズは「連邦破産法第11章」の適用を連邦裁判所に申請、これを切っ掛けにリーマン・ブラザーズが発行している社債や投信やを保有している企業への影響、取引先への波及と連鎖などの恐れ等から、米国経済に対する不安が広がり、世界的な金融危機へと連鎖して行きました。
米ドル指数は、驚愕と共に76.15まで反落しますが、その後は急反発をみせ同年11月24日には88.15の頂に到達しました。
急反発の背景には、何があったのか・・・?
新興国通貨建て資産の激しい売り浴びせ(投げ売り)でした。
通貨の急落は輸入価格の上昇を通じてインフレ圧力を高めます。 予防のために更なる金融引締めを実行すれば景気を急減速させることに繋がりかねず、また株式市場にもネガティブなインパクトを与えてしまいます。
加えて、外貨建て借り入れの大きな国では、その返済がより大きな額となってしまうのです。
従って、今般、上述した国の他、特にアジア地域のインドネシア、タイ、フィリピン、シンガポール、台湾等の各中央銀行も、通貨下落防止の介入をしたのではないかと、市場関係者はみています。
スムージング・オペレーションの域は出ていないと思われますが、リーマンショック時の学習効果の現れとして一定の評価をすべきでしょう。
さて、賢明な読者は既にお気づきでしょう。。。。。
相場水準の是正に成功したスイスを除いては、全て自国通貨買い・ドル売り介入を実施しているのです。
「為替の表現を声明に盛り込むことができたので各国共通の認識になっていると思う」。 安住財務相はG20後の会見で、過度な円高への懸念を各国が共有したとの見方を示しました。
しかし、これが如何に空しい発言であるかは「火を見るより明らか」でしょう。
さて、最後に、ニュートラルに位置した米ドル指数は今後どこへと向うのか・・・。
「安楽死的」なギリシャ施術の成り行きと、懸念国への飛び火の程度、そして先進諸国の抜本的な債務削減政策の行方等を慎重に見極め判断して行く必要がありそうです。
〈ご参考〉
20カ国財務大臣・中央銀行総裁会議声明(仮訳)
〈ご参考コラム〉
2011. 7.25≪ドル安円高は、何故止まらない?≫
2011. 5. 6≪「通貨安競争」の勝者は・・・?≫
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