2011. 1.30 Sunday ≪「日本・世界をクロスカップリングして行く・・・」≫
菅首相は、ダボスで開催された世界経済フォーラム年次総会(ダボス会議)で「開国と絆」をテーマに特別講演を行いました。 結びでは、ノーベル化学賞を受賞した日本人2人に触れ、異なる物質を触媒で結ぶ「クロスカップリング」の技術を説明。
自らが日本と世界をクロスカップリングしていく等と表明した模様です。
が・・・、窮屈な国会日程を押して出席を強行したものの、内容は抽象論に終始、「虚勢を張っただけのむなしい講演」(野党首相経験者)にとどまってしまったようです。
菅首相は日本の現状を「国民が内向きになっている」「この10年。 経済連携で足踏み状態にある」と分析し「自由貿易こそ世界と繁栄を共有する最良の手段」と主張。
日本と欧州連合(EU)の間で「今年こそEPA(経済連携協定)交渉を立ち上げたい」と呼び掛け、環太平洋パートナーシップ協定(TPP)は「6月をめどに交渉参加の結論を出す」と説明した等と報道されました。
これは、事実上の国際公約で、結論次第ではリーダーシップの欠如が改めて認識されると共に、「クロスカップリング」論自体が虚空の響きのみを残すことになりかねません。
今般の首相のダボス会議出席は、09年の麻生太郎首相(当時)以来のことです。
因みに、鳩山前首相は昨年のダボス会議を欠席しましたが、代理出席した当時の仙谷行政刷新相は、政府専用機に乗って6,400万円もの税金を使ったとして国会で非難されたことは記憶に新しいところです。
ところで、近年同会議に出席した首相は、どの様な内容の講演を行い日本のリーダーシップを世界の要人達に披露したのか・・・。
麻生元首相(2009年1月)
アジア諸国の成長強化に向けインフラ整備計画などで1兆5000億円を支援すると表明。 メコン地域およびインドのデリーとムンバイを結ぶ産業回廊計画への日本の関与を強調し、政府開発援助予算は20%増の総額1兆5000億円になると述べました。
また、新たな温室効果ガス排出量の削減計画を発表。 IMFへの1000億ドル(約9兆円)の融資についても再度確約しました。
福田元首相(2008年1月)
北海道の洞爺湖で行われる主要国首脳会議(G8)の議長として、温室効果ガスの全主要排出国に排出量の目標値を設定するよう求めていく。 全主要排出国が参加する仕組みづくりや公平な目標設定に責任を持って取り組むとの決意を表明しました。
森元首相(2001年1月)・・・歴代初参加
今後の政策に関して3つの決意、すなわち @バランスシート調整をすみやかに終える。 A情報技術(IT)を軸に攻めの再構築を着実に進める。 B世界へのコミットを多元的に進める---ことを述べました。
尚、小泉元首相は、国会日程を優先させて一度も出席していません。
国会の予算審議日程を理由に政治のリーダーが出席しないというのは、会社組織に例えると、社内の会議を理由に社長がIR(投資家向け広報)活動を怠るのに似ている、等の意見もありますが、出席して講演を行い「絵に描いた餅」を披露しさえすれば良いというものではなく、提示したビジョンを推進し結果のフィードバックを行う。
その中で、意見や情報等を収集して次ぎの戦術に活かして行く、そうしたことが不可欠な時代なのです。
米国の格付会社によって、国債の格付が「ダブルA」から「ダブルAマイナス」に引下げられてしまいました。 格下げの理由として「大規模な財政再建策が実施されない限り、(政府目標の)20年より前に基礎的財政収支の均衡は達成できない」との見通しを挙げつつ、加えて「連立与党が昨年夏、参議院で過半数議席を失ったことも一因となり、民主党政権には債務問題に対する一貫した戦略が欠けている」等と説明しています。
前回のコラムで触れましたが、政府は昨年決定した財政運営戦略で、27年度に国内総生産(GDP)比の国・地方のPBの赤字を22年度水準から半減させ、32年度までに黒字化する目標を掲げ、6月までにまとめられる「税・社会保障一体改革」の成案に消費税の上げ幅を明記する考えが示されました。
その様な環境の中で、通常国会がスタートしています。
世界に発信する手土産が何も無く、また(発言原稿完成後であったが故に)国債格付の引下げに関して何の反論をすることも出来なかった今般の特別講演・・・。
「御家事情の重大さに鑑み、GDP規模世界第3位であるわが国の政治、経済の安定こそが日本にとって、引いては世界にとって中長期的にもたらされる効果が大きいと考え、今次の会議欠席という苦渋の決断を下した」とした方が世界に向けても説得力が増したのではないか、と考えるのは私だけではないでしょう。
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