2010.10.23 Saturday
≪相続税は課税強化、贈与税は緩和へ・・・?≫
政府税制調査会で税制改正論議を取り仕切る立場にある五十嵐文彦財務副大臣は、財政に関する公開討論会で、「相続税についてはもう少し幅広く負担をいただく代わりに、贈与税は思い切って緩めていくという方法もある」と述べたと伝えられました。
国家財政の逼迫した状況に改善の兆しがみられない中、国民をどこへ導こうとしているのか・・・・・考察してみました。
財務省資料「相続税の課税状況の推移」によると、平成19年度の死亡者は約110万人で、内課税件数は46,800件、従って課税対象割合は約4.2%とされています。
つまり100件の相続が発生しても相続税を納付する必要が生じるのは4件に過ぎないのです。 また、被相続人ひとりあたりの納税額は約2,700万円で、これはピークであった平成3年の4割弱の水準です。
徴収側からすれば現行の相続税の機能は著しく低下してしまっているという主張につながります。
さて、平成15年1月1日以降、の相続税の最高税率は50%、遺産に係わる定額基礎控除額は5,000万円、法定相続人数比例基礎控除額は1,000万円×法定相続人の数、とされています。
はたして、この仕組みを用いた場合の相続税の負担率は諸外国と比べてどの様な水準にあるのか・・・。 財務省資料「主要国の相続税の負担率」によると、事例として課税価格3億円の場合で相続人が配偶者及び子が2人のケースが記載されており、我が国の場合その負担率は約7.7%と示されています。
2011年に遺産税が復活される予定の米国は約8.6%、フランスで約7.1%。 ドイツはなんと約1.6%とかなり低く、一方で英国は日本のほぼ倍の約13.6%となっています。
日本だけが突出している状況ではありません。
では、五十嵐副大臣の相続税課税強化はどの様に図られようとしているのでしょうか?
二つの手法が考えられます。 ひとつは、現行の3億円超に適用されている最高税率50%について、金額による累進の階段を増やし、例えば10億円超20億円以下を60%・20億円超50億円以下を70%・50億円超を80%にすること等が考えられます。
二つ目は、納税対象層を拡大させるとの観点から定額基礎控除額を3,000万円に引き下げ且つ法定相続人数比例基礎控除額を500百万円×法定相続人の数とする等があり得ます。
ところで、一方の贈与税に関してですが、暦年課税制度の場合課税価格が1,000万円を超えると50%の税率が適用されるため、親から子息等への円滑な承継を妨げるひとつの大きな要因とされています。
生前に贈与を行った場合子息らの納税負担が大きく、一方相続発生まで何もしなければ財産を相続しても何も納税しなくてよい等といった賢い判断が働くからです。
我が国の個人金融資産は約1,400兆円存在し、その約8割を65歳以上の方が保有していると言われています。 この膨大な資金を早期に次世代に移転させ、単に金融機関に眠らせておくのではなく、消費や投資にわましてお金の流通を活性化させることによって経済活動を活発化させる。
その結果として、税収も上げて行こうといった戦略と考えられます。 もちろん、消費税率の引き上げを組み合わせることで、相乗効果も狙っていると思われます。
ひとつ気にかかることは、はたして次世代が積極的に日本国債に投資するか、という点です。 高齢者層は直接的にせよ間接的にせよ安定的な日本国債ホールダーとなってきました。
ギリシャショックの際にも日本国債市場が揺るがなかったのは、その95%が国内の資金によってまかなわれているからです。
膨大な金融資産の承継を促進させる中、国債の国内消化率をどの様に安定的に維持するのかは、決して見逃すことのできない重要な視点なのです。
〈ご参考〉
財務省 HP
国税庁 HP
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