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2011. 3. 12 Saturday
≪投資資金の回収を優先・・・すかいらーく株式売却へ≫

野村プリンシパル・ファイナンスが、保有するファミリーレストラン最大手すかいらーくの株式を、米系投資ファンド(ベインキャピタル)に売却する方針であることが明らかになりました。 買収額は2565億円と国内最大のMBO案件(2006年当時)で、 経営改革を通じて(3年後の)2009年中にも再上場を果たすシナリオが想定されていましたがそれは叶わず、結局「マネーゲーム」の対象と化してしまいました。

すかいらーくのルーツは、1962年東京都保谷町(現西東京市)のひばりが丘団地に、横川家(横川4兄弟)が食料品を取り扱うスーパーとして創業した「ことぶき食品」で、地域密着型の経営を営んでいました。 が、当時は高度成長期であり旺盛な消費需要から大駐車場を完備した大型店舗の巨大スーパーが相次いで近隣に進出、そのあおりを受け客数は大幅に減少し売上低下に歯止めがかからず、次第に赤字経営となって行きました。

その様な環境下にて業態転換を模索する中、モータリゼーション
が急速に進んでいた点に着目し先進のアメリカへ渡米し調査・研究を行った結果、既に一般的となっていたマイカーで来店するファミリー客をターゲットとした「レストラン」の日本での展開が考案されたのです。

尚、店名には創業の地であるひばりが丘団地に因み、ひばりの英語名(Skylark)が採用されたと言われています。

1981年には、大規模ファミリーレストランチェーン初のPOSシステムを導入。
既存の手書き伝票による利用客からのオーダー受けが客席に於ける「ハンディターミナル」のボタン入力で完了しメニューの販売履歴の管理、在庫管理・発注がシステム化され効率的な店舗運営が可能になりました。 このシステム化の成功でローコストオペレーション「少人数での対応」への改革・多店舗化に弾みが付く事となりました。

が、1990年代に入るとバブル景気崩壊のあおり受けて外食消費市場の縮小が続き、それを打破すべく低価格の新業態である「ガスト」を展開。 「おいしい料理を、ポピュラープライスで、自宅のダイニング感覚でお食事を」をコンセプトに推し進めるも、サービスをしないことが客席放置につながり、またメニューが飽きられ、客層も悪化、90年代半ばには業績が激しく落ち込んでしまいました。

そして、2006年6月、「外食産業の市場が縮小する一方で競争が激化しており、すかいらーくの業績も悪化していることから店舗の統廃合、新しい業態の創造など抜本的な事業再構築をする必要があるが、短期的に利益を圧迫するなど5万人を超える株主の要望に応えることができないおそれがあるため」(横川竟氏)として、MBO(本件では、正確にはMEBO)による株式の非公開化に踏み切ったのです。

スキームは大よそ下図の通りで、野村プリンシパル・ファイナンスとCVCキャピタルパートナーズがすかいらーくの株式に合計1,600億円を拠出したほか、みずほ銀行を中心とする銀行団が融資を行い、MBOが実行されました。


しかし、長期の景気低迷に伴い消費者の「外食離れ、中食志向」が浸透する中、非公開後のすかいらーくの業績回復は当初の想定とは大きな乖離が生じてしまうことになってしまいます。

2008年8月には、臨時株主総会と取締役会が開催され、
野村プリンシパルとCVCキャピタルパートナーズが提案した横川竟社長の解任と谷真常務執行役員の社長就任が決議されたことにより、株主主導の再建策へ移行して行きました。

改革途中だったのに中途半端で辞めざるを得ないのは非常に残念です。 (投資会社と外食企業は)淡水魚と海水魚くらい住むところが違ったんだと、僕は最近思うんですよ。 どっちも生きられないんです。 全く価値観が違う。 しかし、業績が悪かったという点で、私は約束を破った。 これは事実です。」(横川竟氏)・・・無念さがにじみ出ている当時のコメントです。

それから、2年半が経過・・・「再上場」も「主導的再建」も断念したが故の今般の野村プリンシパル・ファイナンスによる株式の売却方針です。 本件売却金額(負債込み)は2,800億円程度とみられ、月内の合意が目標にさている模様です。 

国際的な自己資本規制強化の動きに対応し、金融機関はグループで保有する未上場株式を売却する流れにあります。 野村HDは先日、投資先のベアリング用部品大手、ツバキ・ナカシマ(奈良県葛城市)をオルタナティブ投資会社のカーライル・グループに売却することで合意しています。

ファンド側としても投資した以上、その分を回収しなければいけない。 また再上場が困難であれば残るは他社(含、他の投資ファンド)への売却のみで、であればできるだけ売却しやすい条件を整えることが重要となります。

すかいらーくのケースでは、再建計画が思惑通りに進まず、一方で昨年11月の米FRBによる金融緩和と伴う過剰流動性がグローバルで株価を押し上げてきました。 また、欧米系の一部の投資ファンドに体力が戻ってきているのも事実で、今般の売却に関しては、株式市場の活況が結果として、すかいらーくの株式評価額を間接的に押し上げた、まさにそのタイミングこそが「売却しやすい条件」とみなされたと言うこともできるでしょう。

MBOの特質柄、投資ファンドが主たる資金を提供するスキームである以上、これまで以上に投資ファンド等の力関係が強くなることは止むを得ない現実です。

心得ておくべきことは、「MBO」=「自由に経営ができる」という認識は大きな誤りであるということです。 上場廃止で株主の目を気にせず、自分たちの思う通りに経営できるという等といった巷で言われている様なメリットばかりでないのです。


但し、何よりも重要なことは、創業ご一族がこれまでに係ってきた会社に関する歴史的・時代的背景や思い入れ等は基本的にマネーゲームを操る諸氏に理解されることはないということです。 やはり、「淡水魚」と「海水魚」の違い程に、目指しているターゲットが異なるのです。

MBOを用いた株式の非公開化は活用の仕方(設計図の描き方)によっては、相続対策的にも極めて有効な戦術となり得ます。 人生のドラマの凝縮であるMBOについて、上場させた株式を非公開化することの苦悩や葛藤を親身になって聞きつつ冷静な助言のできるアドバイザーを脇に置いておくことができるか否か・・・これこそが案件を成功に導くための、まさに必要不可欠な要件なのです。




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