2011. 3. 18 Friday
≪2000年以来の協調介入・・・その背景にあるものは...≫
声明は、「日本における悲劇的な出来事に関連した円相場の最近の動きへの対応として、日本当局からの要請に基づき、米国、英国、カナダ当局及び欧州中央銀行は、2011年3月18
日に、日本とともに為替市場における協調介入に参加する。」としています。 この迅速な決定の背景には、何があったのか・・・。
因みに、G7による協調介入は、1999年1月のユーロ誕生後のユーロ安を受け、2000年9月にユーロ買い介入を実施して以来のことです。
今回の緊急電話会議は、11日に発生した東日本大震災と東京電力福島第一原発事故を受けて円相場が戦後最高値を更新するなど、金融市場が不安定になっていることに対応するもので、声明では、「我々は、こうした困難な時における日本の人々との連帯意識、必要とされる如何なる協力も提供する用意があること、日本の経済と金融セクターの強靭さへの信認を表明する。」とした上で、「我々が長らく述べてきたとおり、為替レートの過度の変動や無秩序な動きは、経済及び金融の安定に対して悪影響を与える。
我々は、為替市場をよく注視し、適切に協力する。」と、強い協調の意志が反映されています。
野田財務大臣は、「日本に協力したいという思いがG7各国にあった。 友情ある協調だ。 感謝したい」と述べました。 確かに、原発事故も相まって震災による日本経済への影響は甚大とみられ、とりわけ急激な円高は輸出企業を中心に企業収益を圧迫し、足踏み状態から脱しつつある景気の腰折れが懸念されていました。
それを回避する為の「温情を伴った協調行動」とも言えます。
しかし、温情だけでG7が迅速に今般の決定を行ったとはとても考えられません。
大震災が原発事故を誘発してしまったという惨事が、回復基調を強めつつあった先進国経済に心理面からも急ブレーキをかけてしまうことが想定され、とても一国の問題とはしておけないとの共通認識があったことも事実でしょう。
ところで、日本は多くの先端部品の製造国で、リチウムイオン電池の電極剤では世界の供給の78%を占め、液晶ディスプレー(LCD)用偏向フィルムについてはほぼ独占し、デジタルカメラやスマートフォンに使われるフラッシュメモリーで約30%、パソコンに使われるDRAMでは約15%に上っています。
この20年間で、世界経済における日本の役割は相対的に縮小してきました。 中国などが成長する一方で、日本経済はずっと停滞してきたからです。
とはいえ、一部の製造業のサプライチェーンでは、まだ重要な役目を担っており、最も顕著なのは自動車と電機の分野です。
この震災で、現在多くの工場が一時的あるいは部分的な閉鎖に追い込まれており、しかもそれらはグローバル展開企業の製品に組み込まれる根幹部品を製造している工場なのです。
今や、多くの主要製造業でサプライチェーンが国境を何度も越える傾向を強めていることから、部品ひとつの生産がストップしてしまうだけで、製品そのものの生産ラインが完全に停止してしまうことになるのです。
(「サプライチェーンの脆弱性」が露呈した。)
即ち、国境をまたぐ複雑なサプライチェーンのどこかで異常が生じれば、システム全体がダウンしかねない状況になっていることを意味します。
震災及び原発事故後、日本製部品に全面的に依存している海外企業の多くが、部品の枯渇を避けようと生産ペースを遅らせたり、代替部品供給先を探し始めたりしている模様ですが、代替国をそうたやすく見出せるものではありません。
その様な状況下における急激な円高と株安の暴走、そして世界的連鎖・・・。
今や、金融経済が実体経済を大きく動かしてしまう時代へと変化しています。
行き過ぎる市場環境の急激な変化は、それへの対処も必要とするならば、復興そのものを遅延させることにもなり、当然の帰結として影響は世界規模で拡大して行くことになります。
今般のG7による迅速で適切な対処策は、各々が「自国の利益に寄与するものである」と認識したことがその背景の根底にあったものと考えられます。
それは、サブプライム・ショック、リーマン・ショック、欧州ソブリン危機そして北アフリカ・中東民主化ドミノと続く、一連の国際的な金融・経済の混乱を経た上で学習した効果の現われであったとも言えるでしょう。
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